1.数学を活用した問題解決
日常生活における問題や社会問題について数学的に考察する場合,次の手順で進める。
① 仮定を立てて問題を理想化・単純化する。
② 数学を活用して解を求める。
③ 実際の問題と照らし合わせて結果を吟味する。
2.社会の中にある数学
ある都市にはA,B,C,Dの4つの選挙区があり,議席総数は15である。また,それぞれの選挙区の人口は次の通りであるとする。
選挙区 | A | B | C | D | 合計 |
人口(人) | 35000 | 50000 | 23000 | 32000 | 140000 |
このとき,各選挙区の議席数が,その選挙区の人口にできるだけ比例しているように各選挙区に議席を割り振りたい。
このとき,以下の最大剰余方式を利用することで議席数を決定することができる。
① 総人口を議席総数で割った値を\(d\) とする。
② 各選挙区の人口を \(d\) で割った値の議席を各選挙区に割り振る。
ただし,求めた値が整数でない場合は,小数点以下を切り捨てて整数にする。
③ ②が終わった段階で議席が余る場合,②で切り捨てた値の大きい順に1議席ずつ,議席が余らなくなるまで割り振る。
例題
上記の各選挙区に最大剰余方式で議席を割り振れ。
解答
\(d = \displaystyle\frac{140000}{15}=9333.33\cdots\cdots\)
よって
選挙区A = \(\displaystyle\frac{35000}{d} = 3.75\)
選挙区B = \(\displaystyle\frac{50000}{d} = 5.357\cdots\)
選挙区C = \(\displaystyle\frac{23000}{d} = 2.464\cdots\)
選挙区D = \(\displaystyle\frac{32000}{d} = 3.428\cdots\)
したがって,選挙区A、B、C、Dの整数値は
3, 5, 2, 3
である
したがって,残りの2議席を少数点以下最も大きいAとCに割り振ると
4, 5, 3, 3
となる
ある都市にはA,B,C,Dの4つの選挙区があり,議席総数は15である。また,それぞれの選挙区の人口は次の通りであるとする。
選挙区 | A | B | C | D | 合計 |
人口(人) | 35000 | 50000 | 23000 | 32000 | 140000 |
このとき,各選挙区の議席数が,その選挙区の人口にできるだけ比例しているように各選挙区に議席を割り振りたい。
このとき,以下のアダムズ方式を利用することで議席数を決定することができる。
① 総人口を議席総数で割った値を\(d\) とする。
② 各選挙区の人口を \(d\) で割った値の議席を各選挙区に割り振る。
ただし,求めた値が整数でない場合は,小数点以下を切り上げて整数にする。
③ ②で割り振った議席数の合計が議席総数と異なる場合,\(d\) と異なる値\(d’\) を選び\(d\)を\(d’\) におき換えて,再度手順②と同様の方法で議席を割り振る。
④ 割り振った議席数の合計と議席総数が一致するまで手順③を繰り返す。
例題
上記の各選挙区にアダムズ方式で議席を割り振れ。
解答
\(d = \displaystyle\frac{140000}{15}=9333.33\cdots\cdots\)
よって
選挙区A = \(\displaystyle\frac{35000}{d} = 3.75\)
選挙区B = \(\displaystyle\frac{50000}{d} = 5.357\cdots\)
選挙区C = \(\displaystyle\frac{23000}{d} = 2.464\cdots\)
選挙区D = \(\displaystyle\frac{32000}{d} = 3.428\cdots\)
したがって,選挙区A、B、C、Dを小数点以下を切り上げて整数にすると
4, 6, 3, 4
である。
したがって,この結果,議席数の合計が 17 となり議席総数より多くなってしまうため,\(d\) とは異なる値\(d’= 11000\) を決め,再度計算をすると
選挙区A = \(\displaystyle\frac{35000}{d’} = 3.18\cdots\)
選挙区B = \(\displaystyle\frac{50000}{d’} = 4.54\cdots\)
選挙区C = \(\displaystyle\frac{23000}{d’} = 2.09\cdots\)
選挙区D = \(\displaystyle\frac{32000}{d’} = 2.90\cdots\)
よって,この結果の小数点以下を切り上げて整数にすると
選挙区Aは 4
選挙区Bは 5
選挙区Cは 3
選挙区Dは 3
したがって、合計が 15 となったのでこの値を議席数とすればよい。
変量\(x\) についてのデータが,\(n\) 個の値,\(x_1, x_2, \cdots\cdots, x_n\) であるとし,\(x\) のデータの平均値を\(\overline{x}\) ,分散を\({s_x}^2\), 標準偏差を\(s_x\) とする。
このとき,新しい変量\(z = \displaystyle\frac{x – \overline{x}}{s_x}\)とするとき,一般的には以下で偏差値を定める。
(偏差値)=\(10z + 50 =. 10 \times \displaystyle\frac{x – \overline{x}}{s_x} + 50\)
例題
あるクラスで行われた以下のような数学と国語の試験の得点のデータについて,A さんの数学と国語の得点がともに80点であるとき, それぞれの偏差値を求めよ。また,相対的な順位が高いのは数学と国語どちらか答えよ。
数学 | 国語 | |
平均値 | 70 | 70 |
標準偏差 | 10 | 20 |
解答
数学:\(10 \times \displaystyle\frac{80 – 70}{10} + 50 = 60\)
国語:\(10 \times \displaystyle\frac{80 – 70}{20} + 50 = 55\)
したがって,数学の方が偏差値が高いため,相対的な順位が高いと考えられる。
データを値の大きさの順に並べたときに,データの両側から同じ個数だけ除外した後でとる平均のことをトリム平均または調整平均という。また,データの両側から個数の\(x)\ %ずつ除外した後でとる平均を\(\color{red}{x}\) %トリム平均という。
トリム平均を考えることで,スポーツの採点競技などでの,極端な点数をつける審判の影響を小さくすることができる。
例題
ある合唱コンクールでは,5人の審査員による採点が行われる。次の表は,3つの合唱団A,B,C の採点の結果である。20%トリム平均が最も高い合唱団が優勝する場合,どの合唱団が優勝するか答えよ。
① | ② | ③ | ④ | ⑤ | |
A | 5 | 2 | 3 | 10 | 3 |
B | 2 | 5 | 1 | 7 | 8 |
C | 3 | 4 | 6 | 9 | 7 |
解答
A, B, C の採点結果を高い順に並べて,両側から20%ずつ,すなわち,1つずつ除外した残りの3つの平均は
A:\(\displaystyle\frac{5+3+3}{3} = 3.66\cdots\cdots\)
B:\(\displaystyle\frac{7+5+2}{3} = 4.66\cdots\cdots\)
C:\(\displaystyle\frac{7+6+4}{3} = 5.66\cdots\cdots\)
よって,Cが優勝する
3.時系列データと移動平均
年ごとのある月の平均気温や,月ごとの飲食店の売上額など,1つの項目について,時間に沿って集めたデータを時系列データという。
時系列データに対して,各時点のデータを,その時点を含む過去の\(n\) 個のデータの平均値でおき換えたものを移動平均という。
移動平均を考えることで長期的な変化の傾向を捉えることができる。
例題
以下は2001年から2020年までの20年間における那覇の8月の平均気温を表している。
このデータにおける
2005年を含む過去5年間の移動平均A,
2010年を含む過去5年間の移動平均B,
2015年を含む過去5年間の移動平均C,
2020年を含む過去5年間の移動平均D,
をそれぞれ求めよ。
2001年 | 2002年 | 2003年 | 2004年 | 2005年 | |
平均気温 | 29.6 | 28.7 | 29.6 | 29.0 | 29.0 |
2006年 | 2007年 | 2008年 | 2009年 | 2010年 | |
平均気温 | 29.2 | 28.8 | 29.0 | 29.5 | 28.9 |
2011年 | 2012年 | 2013年 | 2014年 | 2015年 | |
平均気温 | 28.3 | 28.5 | 29.6 | 28.7 | 28.7 |
2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | |
平均気温 | 29.5 | 30.4 | 28.5 | 29.2 | 29.4 |
解答
移動平均A=\(\displaystyle\frac{1}{5}(29.6 + 28.7 + 29.6 + 29.0 + 29.0) = 29.18\)℃
移動平均B=\(\displaystyle\frac{1}{5}(29.2 + 28.8 + 29.0 + 29.5 + 28.9) = 29.08\)℃
移動平均C=\(\displaystyle\frac{1}{5}(28.3 + 28.5 + 29.6 + 28.7 + 28.7) = 28.76\)℃
移動平均D=\(\displaystyle\frac{1}{5}(29.5 + 30.4 + 28.5 + 29.2 + 29.4) = 29.4\)℃
4.回帰分析
2つの変量\(x, y\) の関係が最もよく当てはまると考えられる1次関数(近似式)が \(y =ax +b\) であるとき,直線\(y =ax +b\) を回帰直線という。
回帰直線を求めることで,商品の需要数の予測などをすることが可能となる。
例題
2014年1月から2018年12月における5年間の東京の月ごとの平均気温\(x\) ℃と,1世帯あたりの月ごとのアイスクリーム・シャーベットの支出額\(y\) 円のデータを調べたところ回帰直線が\(y =36.43x +191.72\) で表されることがわかった。
このとき,東京における,平均気温が25.0℃である月の1世帯あたりのアイスクリーム・シャーベットの支出額を予測せよ。ただし,小数第1位を四捨五入せよ。
解答
\(y =36.43x +191.72\)に\(x = 25\) を代入して,
\(y =36.43\times 25 +191.72 = 1102.47\)
したがって,約1102円 と予測される。
2つの変量\(x, y\) のデータが,次のように与えられており,\(x\) と\(y\) に直線的な相関関係があるとする。
\((x_1, y_1), (x_2, y_2), (x_3, y_3),(x_4, y_4),(x_5, y_5)\)
このとき,
\(\{y_1 – (ax_1 + b)\}^2 + \{y_2 – (ax_2 + b)\}^2 + \cdots\cdots + \{y_5 – (ax_5 + b)\}^2\)
の値が最小となるような \(a\) , \(b\) を定めることで,回帰直線\(y = ax +b\) の1つを求めることができる。
このような回帰直線の求め方を,最小2乗法 という。
太陽系の惑星の公転周期と軌道長半径の関係といった範囲が大きいデータは,散布図の目盛を次のように定めることで分析しやすくなる場合がある。
① \(10^n\) (\(n\) は整数)の目盛を等間隔にとる。この間隔の長さを1とする。
② \(10^n\)と\(10^{n+1}\) の間に,\(m \times 10^n\)(\(m = 2, 3, \cdots, 9\))の目盛を,\(10^n\)と\(m \times 10^n\) の間隔が\(\log_{10}m\) になるようにとる。
このように定めた目盛を対数目盛という。
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